“都心部にも関わらず人の気配が感じられない場所”に惹かれる。単に人が少ないとか、静かで落ち着くとか、寛げる穴場スポットみたいなお洒落な意味ではなく、高度経済成長期に開発されたまま成長が止まり廃墟のようになったニュータウンとか、未来の都市の機械的な冷たさ、自然の勢いに飲み込まれるビルの姿など、良く言えば近未来映画に出てきそうな雰囲気のことだ。廃墟に感じるカタルシス、人のいた気配はあるのに誰もいない。
都心部にあるからこそ、そのギャップに惹かれるのかもしれない。今回はそんな、共感してくれる人の少なそうな感覚をテーマに大阪、梅田の街を歩いてきたので紹介する。梅田といっても広いので、まずは大阪駅前ビルに絞ってみた。
ビジネスマンの行き交った痕跡
大阪、梅田にある「大阪駅前ビル」はご存知だろうか。いわゆる駅直結の駅ビルではなく、JR大阪駅から南へ数分の場所に1970年代に建てられた、大阪駅前第1ビルから第4ビルまでのことだ。北新地駅の北側に隣接しているが、当時はJR東西線はまだ無かった。雰囲気でいうと、首都圏の方は新橋駅前ビル(1966年)、ニュー新橋ビル(1971年)を連想すれば早いかもしれない。地下の飲食店街は桜木町駅前のぴおシティ(桜木町ゴールデンセンター)にも似た楽しい空間で、見る人が見ればカオス、外国人観光客にもウケそうな活気あるフロアになっている。

一方、上層階のオフィスフロアには概ね下の写真のように静かな空間が広がっている。ビジネスマンたちが忙しく行き交う風景を想像できそうだからこそ、無人さが際立つのだろうか。撮影は平日の夕方だが、休日であればさらに完全に無人になるだろう。

よく過疎化の進んだ地方の象徴的な絵面としてシャッター通りとなった商店街が使われるが、個人的にはあのイメージには歴史と人の温もりを感じる。だがこのオフィスフロアの静けさには、自分だけが別のレイヤー(異次元的な)に入り込んでしまったような、恐怖のような感情を覚えるのだ。

恐怖といっても、心地よい類のものだ。
上層階で最も気に入った風景が、この吹き抜けだ。駅前ビル4つの建物のうち、唯一第2ビルだけに吹き抜けが設けられている。無機質な建材の連続のせいか、「2001年宇宙の旅」の宇宙船内を連想する。レトロな未来感は格好いい。建築でいうと、アルドロッシの直線的で整然なデザイン(特にガララテーゼの集合住宅など)に死を感じるのと似ている。

昭和の面影を濃く残す低層階
大阪駅前ビルは正確には、1970年4月の第1ビルの完成から1981年8月の第4ビルの完成まで、10年以上にわたって開発され順次開業した。70年といえばちょうど大阪の千里の万博が開催された年だ。50年も前の、竣工した時の様子は知りようがないが、もっと後に自分が梅田で遊ぶようになった頃でもまだディアモール(というこの周辺の地下街)はなく、この駅前ビルに地下で行くには限られたルートしかなかった。
地下1、2階の裏通りや地上2、3階は人通りが少なく、雰囲気も、当時とそう変わっていない。


第2ビル、地下1階から地上2階の吹き抜け。時間にもよるのだろうが、ほとんど全く人はいない。大規模なビル全体が廃墟だと錯覚する。

吹き抜けを見下ろすと噴水(の跡)がある。当時はかなり勢いよく水を噴き上げていたようだが、時が止まった今の姿の方が美しく感じる。

1970年代は噴水がひとつのブームのようになっていて、街づくりでも多用されていたように思う。大阪駅の中央コンコースの北側にも昔は大きな噴水があり(今の、暁の広場あたり)待ち合わせ場所になっていたが、今は跡形もない。かつての噴水が今も撤去されずに残されている場所は、どれほどあるのだろうか。
ほとんど人の来ない場所で、エスカレータだけが黙々と動いている。

都会的×廃墟的/中庭の記憶
自身が通っていた中学校に、ロの字に校舎に囲まれた中庭があった。校舎に囲まれているので夜間は光も音も遮断され、真っ暗な中で木々が強烈なスポットライトに照らされていた。人工的な池から微かに聞こえる水の音が、その空間の静寂さを際立たせていた。その中庭の雰囲気に何か感じることがあり、写真が好きになった。
街の中の無人の場所を取り上げたいと思ったきっかけが、下の写真の場所だ。第2ビルの3階屋上(北側)になる。
古いコンクリートと雑草の組み合わせがそう思わせるのか、チープな表現になるが廃墟手前の格好良さに通じるものがある。懐かしい中庭の記憶が蘇る。

大阪駅前ビルでは第1ビルから第4ビルまで、3階の建物の周囲に駐車場があり、人が歩ける通路や広場がある。写真はそこへ出る階段室となる。

散策路のような通路の向こうに少し見えているが…

突然神社(徳兵衛大明神)が現れる。ちなみに第1ビルの屋上にも神社(正一位福永稲荷大明神)がある。

ビルに設けられた緑のある通路……といえばなんの変哲もない、ありふれた場所として伝わってしまうが、人の気配がないことで廃墟感すら覚えるこのスポットは、そういう方面が好きな人にはたまらないのではないか思う。

ロケーション重視のコスプレ界隈にも興味を持たれそうだが、人の歩ける通路は限られていて、散策以外の用途で訪れること自体NGかもしれない。だが、今のうちに見ておくべきスポットではないかと思う。何かに通じる重要な……
そう、これって、世界遺産(文化遺産)に通じるようなものではないだろうか。



そんな妄想を楽しみながらの街散策。
記事では写真で一部を切り取って狙った世界観だけを見せているが、実際には日常の風景が流れている、ありふれた場所だ。ニッチ過ぎる好みだとは思うが、興味のある人はぜひ気軽に訪れてほしい。