大阪・梅田。
超高層ビルが立ち並び、巨大ターミナルに国内外から人が集まる、西日本最大の都市空間。その風景は今もなお更新され続けている。グラングリーン大阪の開業に象徴されるように、この街は常に変化を続けている。
しかし、その足元には、別の時間が流れている。
JR大阪駅の南側に並ぶ「大阪駅前第1ビル」から「大阪駅前第4ビル」。高度経済成長期に建設された4棟の大型複合ビルの地下には、半世紀以上にわたって育まれてきた独特の飲食街が広がっている。
狭い通路の両側に並ぶ店々、赤提灯、手書きのメニュー、年季の入った看板。そして、今日もまた同じ席でグラスを傾ける常連客たち。
ここは観光ガイドに載るようなレトロスポットではない。保存された昭和でも、再現された昭和でもない。昭和から続く店もあれば、新たに店を構える若い店主たちもいる。入れ替わりを繰り返しながら、この街は半世紀以上にわたって更新され続けてきた。
「UMEDA DEEP ARCHIVE」は、梅田の地下や裏路地に残る梅田の古層を記録するシリーズ。その第1回は、大阪駅前ビル地下の飲み屋街を歩く。
足を踏み入れると、空気が変わる
JR大阪駅から南に下って数分。ディアモール大阪(という地下街)の先に、一般的に想像される梅田とは異なる空気が流れていることに気づく。
狭い通路の両側には、居酒屋や立ち飲み店がびっしりと並ぶ。客席と通路の距離は驚くほど近く、客たちの会話や笑い声や威勢の良い店員の対応、グラスが触れ合う音が地下空間に反響している。
店先には年季の入った看板。壁には手書きの短冊メニュー。隣には比較的新しいクラフトビールバーやワインスタンドが肩を並べている。
不思議なのは、新しい店ができても、この街の雰囲気が壊れないことだ。むしろ新しい店ほど、この地下街の空気を理解しているかのように、小さな間口に暖簾を掲げ、カウンターを中心に据え、隣の客との距離が近い店づくりを選んでいる。


ここにあるのは、昭和を保存した空間ではない。半世紀以上にわたり、新陳代謝を繰り返しながら生き続けてきた街の姿そのものだ。
“現役の昭和”が残る場所
大阪駅前ビルが建設されたのは、高度経済成長の真っただ中。1970年の大阪万博を目前に控え、梅田が西日本最大のビジネス街へと発展していった時代だった。
半世紀以上が経過した現在も、その地下には当時の面影を色濃く残す風景が広がっている。昭和40年代を思わせる書体の看板。使い込まれたカウンター。手書きのメニュー。そして、仕事帰りに立ち寄り、店主との何気ない会話を楽しむ常連客たち。
しかし、大阪駅前ビル地下の魅力は、「昔の店がそのまま残っていること」だけではない。実際には閉店する店もあり、新たに店を構える人たちもいる。庶民派立呑み店、クラフトビールバー、立ち飲みワインバル。そうした比較的新しい業態が増えても、この地下街の空気は不思議なほど変わらない。
新しい店が古い街を壊すのではなく、古い街の文化を受け継ぎながら新しい世代が加わっていく。だからこそ、この地下街は「昭和の遺構」ではなく、現在も成長を続ける都市空間として存在しているのだろう。
世界有数の未来都市・大阪の地下にある、もうひとつの都市
海外から大阪を訪れる人々が目にするのは、巨大駅、超高層ビル、LEDビジョン、そして絶えず変化を続ける都市の姿だろう。しかし、その地下には、もうひとつの大阪がある。
狭い通路。
赤いネオン。
漂う煙草の匂い。
焼き物の香り。
グラスの音。
地下特有の反響。
Beneath futuristic Osaka lies a hidden city from the 1970s.



ただし、それは時間が止まった街ではない。
昭和から営業を続ける老舗の隣に、昨年オープンした店が並ぶ。年配の常連客の隣で、若い会社員がクラフトビールを飲んでいる。半世紀前の看板の下で、新しい店主が今日も暖簾を掲げる。
過去が保存されているのではなく、過去と現在が同時に営業している。それこそが、大阪駅前ビル地下という街の、本当の魅力なのかもしれない。

